ボロハイドライドの新しい製造法


 

ボロハイドライド(水素化ホウ素化合物)は高い水素貯蔵能力を持つ化合物であり、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)を例に取ると10.6wt%の水素を含んでいます。加水分解反応では10.8wt%の水素を取り出すことができます。

 

 NaBH4 + 2H2O → NaBO2 + 4H2 (水素10.8wt%)

 

また結合している水素はH-(プロタイド)状態で存在しているという非常に興味深い物質です。

当社ではボロハイドライドを利用したエネルギーシステムを提案しており、ボロハイドライド水溶液の加水分解による常温・常圧での水素の発生供給法の研究開発、および水素化ホウ素化合物の水溶液を燃料として直接発電反応が行われる燃料電池(DBFC, Direct Borohydoride Fuel Cell)の研究開発を行っております。

 

本システムにおける重要な課題の一つに、ボロハイドライドの価格が高いことがあります。水素化ホウ素ナトリウムでは(以降、"ボロハイドライド"として"水素化ホウ素ナトリウム"を例に説明します)、現在における価格は1kg当たり7,000円〜5,000円となっており、石油・天然ガス等の化石燃料、あるいは他の水素貯蔵材料との価格競争力を得るために、当社ではより低エネルギーで安価な水素化ホウ素ナトリウムの製造プロセスの研究開発を行っております。

 

 

 

水素化ホウ素ナトリウムの工業的製造法

 

水素化ホウ素ナトリウムは現在2種類の方法で製造されています。

 

(1) 金属水素化物とホウ酸エステルの反応

水素化ナトリウム(NaH)粒子を懸濁した鉱物油に、ホウ酸トリメチル(B(OCH3)3)を滴下してNaBH4を得る方法です。

 

 4NaH + B(OCH3)3 → NaBH4 + 3NaOCH3

G0(298K) = -129.5[kJ/mol-NaBH4]

 

ホウ酸トリメチルは、メタノールと無水ホウ酸(B2O3)の反応により合成されます。

 

(2) アルカリ金属と四ホウ酸ナトリウムの反応

金属ナトリウム(Na)と四ホウ酸ナトリウム(Na2B4O7)に酸化ケイ素(SiO2)等の添加物を加えて、水素雰囲気下で加熱することでNaBH4を得る方法です。

 

 16Na + 8H2 + Na2B4O7 + 7SiO2 → 4NaBH4 + 7Na2SiO3   

G0(298K) = -411.3 [kJ/mol-NaBH4]

 

四ホウ酸ナトリウムは天然に存在するホウ砂(borax, Na2B4O7・10H2O)から得られます。

これらの方法は、どちらもNaBH4を1モル製造するために金属ナトリウムを4モル必要とします。金属ナトリウムは製造コストが高く取り扱いも容易ではないため、NaBH4の製造コストが高い要因となっています。

 

 

新しい水素化ホウ素ナトリウムの製造法の研究開発

 

NaBH4の工業的製造法の課題を踏まえ、ナトリウムに代表されるアルカリ金属を使用しないNaBH4の製造法の開発を、水素エネルギー研究所(MERIT)と工学院大学 エネルギー化学工学研究室(KUCEL)と共同で取組んできました。

 

(1) メカノケミカル法を利用した反応

2000年のNEDOのプロジェクトにおいて、アルカリ土類金属を中心とした金属の水素化物とメタホウ酸ナトリウム(NaBO2)を遊星ボールミル等を利用したメカノケミカル法により、常温・常圧・短時間の反応でNaBO2が高い収率でNaBH4が合成できることを実証しました。

 

 NaBO2 + 2MgH2 → NaBH4 + 2MgO

G0(298K) = -270 [kJ/mol-NaBH4]


この方法により、NaBH4の加水分解により水素を発生した後に回収される、NaBO2を含む"使用済み燃料"からNaBH4を再生することができます。

 

(2) メタホウ酸ナトリウムと水素および還元性金属における反応
メタホウ酸ナトリウムを還元性金属と水素雰囲気下で加熱することによりNaBH4を合成する方法です。

 

NaBO2 + 2H2 + 2Mg  → NaBH4 + 2MgO

G0(298K) = -342 [kJ/mol-NaBH4]

 

金属の表面にH-(プロタイド)が生成する金属では特に効率よくNaBH4を合成することができることが分かってきました。

この方法でも NaBH4の加水分解により水素を発生した後に回収される、NaBO2を含む"使用済み燃料"からNaBH4を再生することができます。

 

 

新しい水素化ホウ素ナトリウムの製造法(MERIT/KUCEL方式)の特長

 

(1) 原料であるメタホウ酸ナトリウム(NaBO2)は、水素発生後の"使用済み燃料"をリサイクルしますが、、天然に存在するホウ砂を原料とすることもできます。

 

(2) 価格が高く、取扱いに注意を要するアルカリ金属を使用しません。

 

(3) 粉末状の反応物を反応器内に充填して水素雰囲気下で加熱することで反応が進行します。そのため金属水素化物をあらかじめ製造する等の前処理を必要としません。


(4) メカノケミカル法と比較すると、機械的・電気的エネルギーの消費が低減されます。

 

 

 

 

MERIT/KUCEL方式による水素化ホウ素ナトリウム製造法の研究開発テーマ

 

(1) MERIT/KUCEL方式による実用化技術の確立
 ・ NaBH4量産化技術開発
 ・ NaBH4の製造コストをより低減できる製造プロセスの研究


(2) 反応機構の解明を通じた高効率製造プロセスの開発

(3) その他の新しい手法の開発

 

 

 下の図はボロハイドライドを燃料電池への水素供給源とする燃料供給システムについての私たちの2003年当時の提案でしたが、2005年以降は、硼砂を」原料とする新しい製造・再生プロセスの実用化開発に努力しています。